第一章


四、螺旋運動の掌握

 特徴三は太極拳という名前の由来であるが、その作用は前述のとおりである。よって前人は後世の人々が纏絲運動ができるようになるために、『太極拳論』の中に専門の記述を設けた。これは動く上での実際状況を総括した内容である。その中の最初の部分が纏絲勁について述べられたものである。

 特徴三を掌握するためには、この部分と比較しながら練習し、併せて日ごろの型を行う時にチェックをする際の物差しとすることにより、正確な姿勢と動作を獲得することができる。ここでその部分の概要を解説する。
(1)精神面からの特徴三の実質的状況の把握

 (甲)一挙一動において全身が軽妙であることを維持していなければならない。ひとたたびやる気を起こしさえすれば、遅い・重いといった心配をする必要はなくなる。これが軽やかさを得るための方法である。纏絲勁を得るためのまず一点目は、勁を動かす過程において全身を軽やかにしておくことであり、これが纏絲勁を実現させるために有利な条件を提供することができる。

 (乙)”動作は節々貫串”――勁を運用することは絹糸を巻き取っている最中のようなものであり、軽やかさの中に連なりを必要とする。これも動きの中においては極めて重要であるため決して軽んじてはならない。詳細は本書の第五の特徴を参照。

 (丙)”神宜鼓蕩、気宜内敛”(①神と気はうねりながらも内に収めることができる。よって拳論では“神気のうねりを得んとすればまず最初に精神を奮い起こし、神を外に発散させないこと”と書かれている)――もし心意を動作の中に込めることができず雑念が沸いてくる場合、意と神が呆けている状態として表れ、神にうねりをおこすのは難しい。同時に気を心に従わせて内側に収めるということもできなくなり、結果として気勢が散漫になる、勁に含みがなくなる、身法が乱れる等の欠陥が発生する。よって、まずは心と意を滔滔と絶え間なく起伏しつづける動作の中に注ぎこみ、神が自ずとうねるようにする必要がある。次に、肺による呼吸を動きに協調させる必要がある。神がうねることにより、気が自ずから収まり散漫に成らず、気が散漫にならなければ、神の導きによって同時にうねりがおこるのである。

 上記三項目の要求は“勁の運用は軽やかに連なり、神気はうねらせ内に収める”ということであり、これは絲勁を把握する際に必ず理解しなければならない精神の実質的内容を説明したものであるといえる。 

(2)勁の種別による特徴三の把握

 (甲)“欠けた部分があってはならない”――纏絲勁を運用するにあたっては、その順逆を問わず八種類の勁をできるだけ螺旋の弓の背の上に運んで行く。螺旋の接触面上においてあるときには弓の背に、ある時は弓の中に落ち込んでしまうというのでは不合格であるが、しかしこれは纏絲時に最も陥りやすい欠点である。もし一度内側に欠けてしまうと、掤勁が弱くなってしまうだけでなく、同時に纏絲勁の摩擦特性が失われてしまう。よって、もし欠けが発生した場合勁は螺旋の接触面上に到達することができず、纏絲勁における螺旋による影響力が失われてしまう。(図5)
 
 (乙)“凹凸があってはならない”――纏絲勁を運用する際の導線は、全ての過程において曲線と緩和がなければならず、円滑な姿勢を形成すると同時に綿のように柔らかく、その上弾性に富んでいなければならない。これらは凹凸を消し去るための方法である。發勁をする場合においても、柔らかい皮の鞭のように振り出されることが要求される。このように、手と身体を放長させ四肢を空気を入れたタイヤのようにさせると、物体と接触すればその動きに合わせて粘りついていく作用が発生する。もし勁の運用時に凹凸が少しでもあると角張った部分が出現し、力で力に対抗する欠点が発生し、それによって勁の運動から螺旋の効力が失われてしまう。(図6)

 (丙)“途切れがあってはならない”――纏絲における全ての過程は、その順逆の纏絲を問わず必ずその纏絲を徹底させなければならない。その「底」とは、ある動作が表現する勁の終了部分であり、次の動作に転換する部分である。このポイントに至っては、折りたたみの転換(①折りたたみの意義に関しては特長6で詳しく述べる)によって次の動作の中に勁をつないでいくのである。勁が途切れないならば、(転換を?)続ける必要はない。勁が途切れ、その後慌ててもう一度つなぎ直すようなことはしてはならない。なぜならば纏絲に断絶があるとそれは隙間となり、この隙間は本来纏絲勁が持っているべき影響力を失わせてしまうだけでなく、相手にチャンスを与えることにも繋がる。よって、纏絲勁の運用上これは避けるべきである。(図7)次に、発勁の際には断絶が発生するが、しかしこの場合“勁が途切れても意は途切れない。意が途切れても神は途切れない。”という要求を守ることにより、断絶が起こったとしてもそれを回復させることができるのである。
 
図5   図6
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